仕事で使う知識の初歩を学ぶセミナーなのですが、社内研修などで同じ内容を既に学んでおり、
もう知っている事ばかりだったので、セミナーの半分ぐらいは退屈な時間でした。
セミナーの内容は
・臨床試験概論
・臨床試験デザイン
・統計的な考え方
・統計学の基礎
という内容でした。
統計学の基礎、統計的な考え方の両講義で何回か繰り返されていたことがあります。
それは
「平均値と標準偏差を真に受けるな」ということです。
統計学というとだいたいが安易に平均値と標準偏差を求めてその分布の持つ性質を要約しようとします。
しかし、正規分布から離れた確率分布においては平均値と標準偏差は分布の性質を把握するのに何の意味も持たないどころか、却って有害でるという事が具体的なデータを元に示されていました。
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従来の金融工学にこの考えを当てはめてみましょう。
金融工学ではリスクといえばリスク資産の標準偏差を以って示されることが多いですが、そもそもリスク資産の値動きは 正規分布に従っているのかをきちんと判定する必要があります。
多くの方はすでにご存じかと思いますが、現実のリスク資産は正規分布に従わずべき分布にしたがう事が実証されています。
つまり、従来の金融工学が積み上げてきた、リスクを標準偏差で表し、期待リターンを平均値で表すという前提は根底から覆されているのです。
このことはLTCMの破綻、サブプライムローン危機を思い出せば容易に分かる事です。
しかし、金融工学は従来の枠組みを捨てようとしません。
これはとても有害な事故が今後も系統的に発生するということです。
私が勉強してきた医薬統計の考え方を元に金融工学について考えてみましょう。
下記のケーススタディを見ると金融工学がいかに危険で無責任な学問なのかが分かります。
ある薬Aがあります。
この薬は血圧を改善する効果がある事は分かっていますが、その効果の度合いは実証されていません。
また、副作用の発生についてもその実態は分かっていません。
そこで、この薬Aの血圧を改善する効果については、従来の高血圧治療薬で得られた改善効果を調べて、従来の薬の改善効果の平均値と標準偏差を採用し、正規分布を仮定することにしました。
薬Aの副作用の発現率も、従来の高血圧治療薬の副作用発現率の平均値と標準偏差を元に正規分布すると仮定しました。
上記2つの仮定を置くと、この薬Aはとても優れた薬である事が数学的に実証されました。
これはとても良い薬であるということで、医者は患者にたくさん処方しました。
高血圧を患っている人の中で、上記の薬Aを服用したい人はいるでしょうか?
また、処方した医者を良い医者だと思う人はいるでしょうか?
おそらくいないと思います。
それはなぜかというと、
「効果が実証もされておらず、何の根拠もなく正規分布を仮定した薬なんか怪しすぎる」
と常識的に分かるからです。
しかし、金融工学となると、リスク資産の実態が正規分布とはかけ離れていることが実証されているにも関わらず、
それを使ってお金儲けをしている人達がたくさんいます(上記の医者と製薬会社のような人達)。
薬は人の健康と命に関わるので、厳しく規制されています。アメリカなら米国食品医薬品局、
日本なら医薬品医療機器総合機構が医薬品の審査にあたっています。
しかし、金融商品については何の審査もされていないというのが現状です。
もちろんこれには薬と金融商品が持つ性質の違いに理由があります。
薬学は自然科学の学問領域にあるので、試験を行えばその結果が再現性を持つだろう事がわかります。
しかし、金融工学は社会科学の学問領域に属する学問であり、実験を行ったとしてもその結果が同じ状況で将来においても再現できるかどうかは定かではありません。
ようするに実験をする事がほぼ無駄であろう学問領域なのです。
(金融工学は工学という名前なのに社会科学であり再現性がないというのが大問題なのですが)
薬は人の健康と命に関わりますが、金融商品もぶっちゃけ人の命に関わる大切なものです。(経済苦を理由に自殺する人が日本の自殺理由のトップです)
また健康にも大きな影響があるでしょう。
わけの分からない金融商品に手を出して大損して、経済的に余裕がなくなれば健康的な生活を営める可能性はぐっと下がります。
また、サブプライムローンのような粗悪な金融商品は社会全体に害を及ぼします。
薬害問題ならぬ金融害問題と言えるでしょう。
そして、金融害と言えるものの発端は、近年では金融工学がその原因を占めています。
市場に混乱が起きると高速取引やらヘッジファンドが悪者にされますが、それ以上に大きな害をなしているのが金融工学なのです。
ぶっちゃけヘッジファンド規制やバーゼル銀行監督委員会による銀行の資本規制を行うよりも、
金融工学規制と金融工学をベースにした金融商品の規制を行うほうが社会に有益だと思います。
そもそも学問として有害なのですし、学問の正当性が成り立っていないのですから規制しても良いかと思われます。
学問の自由と言う基本的人権を鑑みると、学問領域は規制せず、金融工学という学問から生まれ、効果などが実証されていない有害な金融商品を規制するという案が現実的かと思われます。